”中国の排出権取引はまだ展開されていない”

                       『THE NIKKEI WEEKLY』 2011年7月25日号13面 

大連-世界の最大の汚染源である中国各地でここ数年、二酸化炭素(CO2)排出権や温室効果ガスの排出権取引が急増している。しかし、数箇所の取引所は法律の枠組みを確立せず早急に開設しているが、実際取引は行われていない。
 中国東北部の吉林省長春市に4月、吉林省環境エネルギー取引所が設立された。同月には内陸部としては初の四川省広元市に環境取引所が開設された。
 2つの環境取引所が開設されたのは、中国の首都でオリンピックが開かれた2008年8月で、ひとつは北京でもうひとつは上海である。排出権取引の潜在成長に高い期待がかけられ、かようにしてひとつの傾向となった。「いずれヨーロッパのように大きなビジネスになる」とある取引所関係者は言った。

中国の取引所は京都議定書のクリーン開発メカニズム「CDM」で割り当てられた許容量や、第三者機関が認証した「VER」と呼ばれるカーボン排出権を扱っている。上海環境エネルギー取引所では、2008年の8月から2011年の3月末までの累計取引額が100億元(約1250億円)となった。2010年、中国の製紙メーカーが約2万2千トンのカーボン排出権を購入した。そしてそれらを工場5カ所に割り当てた。これまで、北京環境取引所の累計取引件数はカーボン排出権取引によるCDM58件とVER27件の契約にのぼる。
 一方、2010年6月開設の大連環境取引所所員によるとまだ取引を開始していないという。実際、いくらか電話しても「この電話番号はダイヤルできません」とのアナウンスが返ってくるだけの取引所もあるといわれる。

枠組み作りが必要
 日本の商社の広報によると、取引があまりできない背景について「中国の企業は排出権を買う必要性がない」という。「なぜなら、個々の企業の排出量に上限を設定する枠組み作りが中国では設定されていないからである。」その他の要因としては、中国の排出権取引所に近い筋によると、中央・地方政府レベルで、取引監視制度や仕組みの整備が進んでいないという。 

しかしながら、2013年に導入予定の中国の公害産業への環境税は、排出権取引の実施を性急にしそうである。世界資源研究所の中国代表は地元の中国メディアに、税率次第では、税金を払うより市場で排出権を購入することを選ぶだろうと語った。いずれにしても、北京はキャップ&トレード方式を早急に始めようとしているように見える。日本の商社の広報によると「中国政府は北京、上海などの直轄4市と湖北、広東の合わせて6つの都市を選び出し、排出量取引の仕組みを試験的に開始した」と言う。さしあたり、中国が排出権取引を活発化させることで、いかに早く環境を改善する方向に向かうかが注目される。  

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